総論:ベンドラメ礼生とは何者か——Bリーグを象徴する“自律型ポイントガード”
ベンドラメ礼生(1993年11月14日生、福岡県筑紫野市出身)は、Bリーグ・サンロッカーズ渋谷(SR渋谷)に所属するポイントガード(PG)。183cm・79kgという日本人PGの平均的な体躯ながら、鋭いボールプッシュ、広いコートビジョン、そして試合展開を読む洞察力でチームのテンポを統御する“自律型フロアジェネラル”だ。2016–17のBリーグ初年度に新人賞、2019–20にスティール王、天皇杯MVP・ベストファイブ(同季)と、タイトル面でも存在感を示してきた。ブラジル人の父、日本人の母を持つバックグラウンドは、しなやかなフットワークとリズム感の源泉でもある。
プロフィール:基本情報と人物像
- 氏名:ベンドラメ 礼生(Leo Vendrame)
- 生年月日:1993年11月14日(31歳)
- 出身:福岡県筑紫野市
- 身長/体重:183cm/79kg
- ポジション:ポイントガード(PG)
- 現所属:サンロッカーズ渋谷(背番号9)
- 主な受賞:Bリーグ新人賞(2016–17)、Bリーグ スティール王(2019–20)、天皇杯MVP・ベストファイブ(2019–20)
愛称は「レオ」。コート内では冷静沈着な判断と、局面での“間”の取り方が秀逸。オフェンスの初期合図を簡潔に出し、味方の長所を最速で引き出す“合わせの名手”として知られる。
来歴:中学〜大学で磨かれた勝者のメンタリティ
筑紫野市立筑紫野中学校から延岡学園高等学校へ。高校3年時にはウインターカップ初優勝を成し遂げ、能代工以来となる男子の高校三冠を達成した中心人物の一人。大学は強豪・東海大学に進学し、1年次からインカレに出場。アシスト王(2012)、優秀選手(2014)、敢闘賞(2015)と年次を追うごとに評価を高め、4年連続で全国決勝の舞台に立つ経験値を蓄積した。勝ち方を知り、勝つための“準備”ができる司令塔としての資質は、この時期に確立されたと言える。
プロキャリア:SR渋谷一筋、継続と進化の9シーズン
2016年1月、アーリーエントリーで日立サンロッカーズ東京(現・サンロッカーズ渋谷)に加入。Bリーグ初年度の2016–17で新人賞を受賞(平均8.4点/2.7AST/1.7STL)。その後はスターター定着、ゲームコントロールの質を年々向上させ、2018–19には平均11.1点・4.4ASTと二桁得点+指揮能力の両立を果たす。2019–20はスティール王を獲得し、天皇杯でもMVP・ベストファイブを受賞。局面の“強度”が高まる試合でこそ、彼の価値は上がる。
主要シーズン成績(抜粋)
| シーズン | 所属 | GP | GS | MPG | FG% | 3P% | FT% | RPG | APG | SPG | TO | PPG |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| B1 2016–17 | SR渋谷 | 49 | 27 | 22.3 | .404 | 33.0 | 71.6 | 2.4 | 2.7 | 1.7 | 1.8 | 8.4 |
| B1 2017–18 | SR渋谷 | 59 | 27 | 25.3 | .407 | 33.3 | 77.1 | 2.4 | 2.4 | 1.4 | 1.7 | 11.2 |
| B1 2018–19 | SR渋谷 | 60 | 60 | 29.3 | .427 | 38.1 | 68.6 | 2.4 | 4.4 | 0.9 | 2.4 | 11.1 |
※上表は公表データの一部抜粋。以降の最新値は公式発表をご確認ください。なお、2018年4月にB1通算1000得点に到達している。
日本代表:U24からA代表、そして東京五輪へ
2016年に日本代表候補の重点強化選手に選出、2017年はU24候補として台北ユニバーシアードに絡む。2018年にアジア競技大会の日本代表、2019年にはW杯アジア予選でA代表招集、2021年には東京オリンピック男子日本代表の12人に選出された。代表での役割は、スピードアップのギアを与える第1ハンドラー/第2ハンドラーの兼務と、相手ガードに対するフルコートプレッシャーだ。
プレースタイル分析:3つの強みと2つの課題
強み①:テンポコントロールとトランジション創出
ディフェンスリバウンド直後に“最短での前進パス”を探し、走力のあるウイングを走らせる設計が得意。自らのドリブルプッシュも速く、ハーフからフルに展開を伸ばす判断が迅速だ。相手が戻り切っていないタイミングでサイドピックやドリブルハンドオフ(DHO)に直結させ、静から動の切り替えを演出する。
強み②:スティールセンスとスイッチ適性
2019–20のスティール王に象徴される通り、手の出し方がクリーンで角度取りが巧み。パスコースを読み、先回りして“受け手側”に入るカットが多い。1番〜2番は当然、3番相手にも腰を落としてアタック面を抑制でき、SR渋谷のスイッチ・守備強度のベースを下支えしている。
強み③:オフボールの巧みさとタフショット耐性
ボールを離した後のリロケート(位置の再取得)と、コーナーでの“ショートクロースアウト”攻略が上手い。ミドル域のプルアップ、エンドオブクロック(24秒終盤)の難度ショットも一定の成功率を確保しており、クラッチ局面の“嫌がらせ役”として効く。
課題①:サイズ由来のフィニッシュ多様性
リング下のビッグに対するフィニッシュでは、角度や軌道で工夫する必要がある。フローターや片足ストップの精度は高いが、連戦でフィジカルの摩耗が大きい時期に、ペイントアタック回数をどうマネジメントするかはシーズン長期最適化のポイントになる。
課題②:ロングレンジの波幅
3P%はシーズンによって上下が見られる。キャッチ&シュートは安定する一方、ドリブルプルアップの再現性がゲーム間で揺れる傾向。ハンドオフ受けからの1ドリプル3Pや、ピック後のサイドステップ3Pの再現性が高まれば、より“引力”のあるPG像に進化する。
戦術的役割:SR渋谷における“攻守のトリガー”
サンロッカーズ渋谷は伝統的に守備の強度とテンポのメリハリを重視するチーム。ベンドラメは守備→攻撃の変換で初速を出すトリガーであり、早い判断で簡単に得点するための前提条件(スペーシング/ランニングレーンの確保)をコート内で“言語化”する役回りだ。ハーフコートでは、ハイピックの展開幅を広げる“サイド変換”や、ウイングのズームアクション(DHO+ピン)の導入合図を担い、味方の長所(シューターの足元、ビッグのショートロール)を最短距離で起動する。
比較:同世代・同タイプPGとの相対評価
- 富樫勇樹(千葉J):爆発的スコアリングとレンジの深さ。富樫が“重力型スコアラー”なら、ベンドラメは“配球と守備で土台を作る型”。
- 安藤誓哉(A千葉→ほか):1on1での創造性とゲームメイクの両立。安藤が“個”から“組織”を引き出すタイプに対し、ベンドラメは“組織”で“個”を引き出すタイプ。
- 齋藤拓実(名古屋D→京都):ペイントタッチ数の多さで試合を動かすPG。ベンドラメは“脅し(ペネトレイトの予告)→配球”の比率が高い。
結論として、ベンドラメは“チームの総合力を底上げするPG”。スターの爆発力と土台の堅牢さはトレードオフになりがちだが、SR渋谷においては土台の堅牢化で勝率の下振れを防ぐ価値が大きい。
年表:主要トピックの整理
- 2011:延岡学園で高校三冠(ウインターカップ初V)
- 2012:インカレ・アシスト王(東海大)
- 2014:インカレ・優秀選手(東海大)
- 2015:インカレ・敢闘賞(東海大)
- 2016:SR渋谷にアーリーエントリー加入
- 2017:Bリーグ新人賞(平均8.4点/2.7AST/1.7STL)
- 2018:B1通算1000得点到達、オールスター初選出
- 2019:W杯アジア予選でA代表招集
- 2019–20:Bリーグ スティール王、天皇杯MVP・ベストファイブ
- 2021:東京五輪・日本代表
SR渋谷とBリーグの潮流:ガードの価値は“得点力+守備接続”へ
Bリーグのトレンドは、外国籍ビッグの多様化とシューターの増加により、PGの役割が“ただの司令塔”から“接続点”へとシフトしている。守備でのボールプレッシャー→リズム奪取、攻撃でのテンポ創出→早い意思決定が勝敗の分水嶺。ベンドラメはこの要件を満たす数少ないPGの一人で、特に連戦の2試合目、序盤の数ポゼッションで試合の流れをこちらに引き寄せる技術に長ける。SR渋谷が上位を狙う上で、彼の健康と稼働率は“隠れたKPI”だ。
メディア/ファンの評価:玄人筋が推す“勝たせるポイントガード”
派手な記録やハイライトだけで語られにくいタイプだが、「試合のストレスを減らすPG」「ミスの連鎖を断ち切るPG」といった評価は指導者・アナリスト筋に根強い。SNS上でも、クラッチの1ポゼッションで迷いなく味方の“最適解”を選ぶ冷静さ、ディフェンスでの先回りの読みが高く支持されている。
将来の展望:リーダーシップの深度化と“勝ち筋の継承”
31歳という年齢はPGとして円熟期に差しかかった段階。今後の成長軸は大きく二つ。ひとつはロングレンジの再現性向上(特にドリブルプルアップの安定化)、もうひとつは若手ガードへの“勝ち筋の継承”だ。チーム全体の意思決定モデルを標準化し、ゲームプランの言語化を進めれば、SR渋谷の戦術的資産は“個から組織の財産”へと昇華する。プレーと指導の両輪で価値を発揮するフェーズに入っていくはずだ。
データで読む価値:ターンオーバー抑制とスティール創出の相関
PGの価値は、単にアシスト数だけでは測れない。ベンドラメが優れているのは、自分のターンオーバーを抑えつつ、チームのスティールを増やす点にある。ポゼッションの“損失”を最小化し、“獲得”を最大化する。これは1試合あたりの攻撃回数に直結し、終盤の逆転耐性・逃げ切り耐性を押し上げる。勝率に効くプレーの集合体——それが彼のアイデンティティだ。
同様の過去事例:日本人PGの系譜における位置づけ
日本のトップPGは、おおむね二つの系統に分かれる。ひとつは“重力型スコアラー”(例:富樫勇樹)で、もうひとつが“接続型メイカー”(例:篠山竜青)。ベンドラメは後者の完成形に近く、守備の継ぎ目を見つけてテンポを生み、ミスの芽を早期に摘む。勝負所での判断の速さと守備の先回りは、国際試合で価値が上がるスキルセットでもある。
まとめ:ベンドラメ礼生がSR渋谷にもたらす“勝率の安定”
試合の何でもない1ポゼッションを“良い1ポゼッション”に変え続けるPGは、長いシーズンで勝率を着実に引き上げる。ベンドラメ礼生は、まさにそのタイプだ。派手さは控えめでも、テンポの設計・守備の起点・終盤の実行という勝負の本質でチームを支える。SR渋谷が上位争いを続け、ビッグゲームを掴みにいくために、彼の健康と稼働は最優先事項。ロングレンジの再現性が一段上がれば、リーグ全体にとっても“勝たせるPG”のベンチマークとなる。
読者アクション:SR渋谷の次戦では、①開始2分のテンポ設計、②第3Q序盤の守備強度、③クラッチタイムの最初のセット——この3点でベンドラメの判断を観察してみてほしい。彼の“仕事”が、勝敗の輪郭をどう変えるかが見えてくるはずだ。






