富永啓生とはどんなバスケットボール選手か
富永啓生(とみなが・けいせい、2001年2月1日生まれ)は、愛知県名古屋市守山区出身のプロバスケットボール選手である。身長188cm、体重81kgのコンボガードで、利き腕は左。ポジション表記としてはSG(シューティングガード)とPG(ポイントガード)の両方をこなす。父は元バスケットボール選手の富永啓之であり、親子二代でバスケットボールのトップレベルに身を置く。
高校時代の日本国内での爆発的な得点力を起点に、アメリカの短大リーグ(NJCAA)、NCAAディビジョンIのネブラスカ大学、NBAGリーグ(インディアナ・マッドアンツ)を経由し、B.LEAGUEのレバンガ北海道に加入するまで、常に「得点力」と「3ポイントシュート」を武器に階段を上り続けてきた。また5人制日本代表だけでなく3人制バスケットボール・3×3日本代表としても国際大会を経験し、東京オリンピックにも出場している。
圧倒的なシュート力から「和製ステフィン・カリー」と称されることが多く、3ポイントラインから大きく下がった位置、いわゆる「ディープスリー」を連発できる選手として世界レベルの評価を獲得している。2020年代の日本バスケットボールにおいて、もっとも象徴的なシューターの一人といえる存在である。
中学・桜丘高校時代:ウインターカップを席巻したスコアラー
富永は幼少期からバスケットボールに親しみ、春日井市立岩成台中学校で本格的に競技を続けた。その後、愛知県の強豪・桜丘高等学校に進学し、ここで全国区のスコアラーとして一気に名を上げることになる。
高校3年時の2018年、第71回全国高等学校バスケットボール選手権大会(ウインターカップ)に出場した桜丘高校は、準決勝まで勝ち進む快進撃を見せた。準決勝の福岡第一高校戦では、富永は前半だけで31得点を叩き出し、強豪相手にリードして前半を折り返す。しかし後半は6得点にとどまり、チームも逆転負けを喫して決勝進出はならなかった。
それでも翌日の3位決定戦・帝京長岡高校戦では46得点を記録し、チームを勝利に導いている。大会を通して全6試合でいずれも35得点以上をマークし、平均39.8得点という驚異的な数字で得点王に輝いたうえ、大会ベスト5にも選出された。このときの「どこからでも決める」スタイルは、後年の3ポイントシューターとしてのイメージにつながっていく。
高校卒業後の進路を決める段階で、富永は日本国内の大学だけでなく海外留学も視野に入れていた。2018年夏にU18アジア選手権に出場した経験が、より高いレベルでプレーしたいという思いを強めるきっかけとなり、2019年1月にアメリカ留学の意向を表明する。NCAA所属大学からの勧誘もあったが、学力や環境も含めた総合的な判断の末、2019年6月にNJCAAディビジョンI所属のレンジャー・カレッジへの進学を決断した。
レンジャー・カレッジ:短大リーグで証明されたシュート力
レンジャー・カレッジでの1年目(2019-20シーズン)、富永は31試合に出場し、平均16.8得点、3ポイント成功率47.9%という高い数字を残した。アメリカのフィジカルとスピードに適応する必要のある環境で、いきなり長距離砲を武器に主力として存在感を示した点は、彼の順応力とオフボールの動きの巧みさを物語っている。
2年目の2020-21シーズンには、さらに得点源としての地位を固める。2021年3月3日のグレイソン・カレッジ戦では39得点を叩き出し、チームはNJCAAディビジョンI選手権でファイナル4準決勝まで進出。シーズン通算では27試合出場で平均16.3得点、3ポイント成功率48.7%と、ほぼ50%に迫る水準で長距離シュートを沈め続けた。
個人としても2年連続でオールリージョンVチームとカンファレンスファーストチームに選出されたほか、NJCAAディビジョンIオールトーナメントチーム、チャールズ・セッシャー・スポーツマンシップ賞、NJCAAディビジョンIオールアメリカンセカンドチーム選出など、多くのタイトルを獲得している。短大レベルの頂点の一角を担うシューターとして認められたことが、次のステップであるNCAAディビジョンIへの道を開いた。
この期間中の活躍を受け、2020年11月11日には2021-22シーズンからNCAAディビジョンI・ビッグ10カンファレンス所属のネブラスカ大学への編入が決まる。日本人選手がNCAAディビジョンIでシューティングガードとして主力を目指すケースはまだ少なく、その意味でも富永は新しい道を切り開く存在となった。
ネブラスカ大学での挑戦:ビッグ10を沸かせた3年間
2021-22シーズンからネブラスカ大学に編入した富永は、新型コロナウイルスの影響でNCAA全選手の在学可能な資格が1年延長されたこともあり、最大3年間プレーできる環境を得た。このシーズンは同じポジションのブライス・マクゴーウェンズの控えとしての役割が中心で、主にベンチスタートからの出場となる。
それでも2021年11月27日のサウスダコタ大学戦では5本の3ポイントを決めて23得点を挙げるなど、短時間で流れを変えられるシューターとしてインパクトを残した。シーズン全体では30試合出場・11試合先発、平均16.5分の出場で5.7得点、FG成功率37.3%、3ポイント成功率33.0%、フリースロー成功率84.2%というスタッツを記録している。
2022-23シーズンには役割が一変する。マクゴーウェンズが2022年NBAドラフトで指名されチームを離れたこともあり、出場時間が大幅に増加。2023年2月5日のペンシルベニア州立大学戦でキャリアハイとなる30得点をマークすると、そこから5試合連続で20得点以上を記録する爆発的なスコアリングを見せた。
この活躍により、ビッグ10の公式チャンネルが特集動画を制作したほか、たびたび比較されてきたステフィン・カリー本人がSNS上でコメントを寄せるなど、全米レベルで話題となった。最終的に2022-23シーズンは32試合出場・14試合先発、平均25.1分で13.1得点、FG成功率50.3%、3ポイント成功率40.0%、フリースロー成功率86.8%と、効率と得点量の両面で大きな成長を示している。
2023-24シーズンは、ネブラスカ大学のエースとして完全に中心的な役割を担った。2024年1月9日には当時全米1位のパデュー大学を相手にチーム最多の19得点を挙げ金星獲得に貢献。2月4日のイリノイ大学戦では5本の3ポイントを含むキャリアハイ31得点と爆発したものの、試合は延長の末に敗れている。さらに3月10日のミシガン大学戦では30得点を記録し、勝利でレギュラーシーズンを締めくくった。
チームはカンファレンスレギュラーシーズンを3位で終え、トーナメントでは準決勝まで進出して再びイリノイ大学と対戦。ここでは逆転負けを喫したが、エースとしての責任を背負い続けたシーズンだった。シーズン通算では32試合すべてで先発し、平均26.1分の出場で15.1得点、FG成功率46.6%、3ポイント成功率37.6%、フリースロー成功率87.5%という数字を残している。
NCAA・NBAGリーグのスタッツから見る成長曲線
ネブラスカ大学での3シーズンの通算成績は、94試合出場・57試合先発、平均22.7分で11.4得点、FG成功率46.2%、3ポイント成功率37.4%、フリースロー成功率86.8%、平均リバウンド1.8、アシスト0.9、スティール0.7となっている。特に注目されるのは、シーズンを追うごとに出場時間と得点、そして効率がバランス良く伸びている点である。
・2021-22:5.7得点(16.5分/3P成功率33.0%)
・2022-23:13.1得点(25.1分/3P成功率40.0%)
・2023-24:15.1得点(26.1分/3P成功率37.6%)
2年目に3ポイント成功率40.0%というエリート水準に乗せたことはもちろん、3年目にマークされる立場になりながらも得点を伸ばし続けた点は、エースとしての「難しさ」をクリアしている証といえる。シュートに依存するだけでなく、オフボールでの駆け引き、ミドルレンジ、ドライブからのフィニッシュと、得点の手段を増やしたことがスタッツにも表れている。
2024年4月にはNCAAの3ポイントコンテストで優勝し、「3ポイントシューター」としての看板をあらためて全米に示した。同月にはネブラスカ州の親善大使に任命されるとともに、州の最高級栄誉称号である「ネブラスカ提督」にも任命されている。大学バスケットボールの枠を超え、地域に愛される象徴的存在になったことを示す出来事だった。
プロキャリアのスタートとなった2024-25シーズンのNBAGリーグ・インディアナ・マッドアンツでは、14試合に出場して平均8.7分の出場時間ながら、FG成功率49.0%、3ポイント成功率46.9%、フリースロー成功率100%、平均5.4得点という効率的なスタッツを記録している。短いプレータイムでも、3ポイントを中心に高効率でスコアできることを改めて証明したシーズンとなった。
NBAへの挑戦とインディアナ・マッドアンツでの経験
富永は2023年シーズン終了後、大学に戻る資格を保持したままNBAドラフトへアーリーエントリーを行った。2023年4月にはアーリーエントリー選手の一人として公式にリストアップされ、2023年5月30日にはインディアナ・ペイサーズのワークアウトにも参加している。最終的には5月31日にアーリーエントリーの撤回を発表し、ネブラスカ大学に残留する選択をした。
2024年NBAドラフト前には、サクラメント・キングスとロサンゼルス・クリッパーズのワークアウトにも参加し、シューターとしてのポテンシャルをアピールした。しかしドラフト本番では指名はなく、9月26日にインディアナ・ペイサーズとエグジビット10契約を締結する形でプロキャリアに踏み出す。契約自体は翌日に解約となるが、10月27日にはNBAGリーグのインディアナ・マッドアンツに加入し、事実上ペイサーズ傘下でのプロデビューとなった。
NBAGリーグはNBA直下の育成兼競争の場であり、シューターにとってもペースの早いゲームの中でいかにスペースを見つけ、限られたチャンスで結果を出せるかが問われるリーグである。富永は14試合・平均8.7分出場というコンパクトな起用ながら、約5点を安定的に積み上げ、3ポイント成功率46.9%という高確率を残した。これは「シチュエーショナルなシューター」として、ベンチから流れを変える役割を担えることを示す数字でもある。
また2025年にはNBAGリーグのアップネクストゲームに選出されており、リーグ内での注目度も高まっている。将来的なNBAロスター入りに向けて、Gリーグでの経験は重要なステップとなった。
レバンガ北海道への移籍とBリーグでの期待
2025年6月3日、B.LEAGUEのレバンガ北海道が富永啓生の新規加入を発表した。インディアナ・マッドアンツを経てのBリーグ参戦は、日本のファンにとって長く待ち望まれていた「国内での富永」を見られる機会となる。
レバンガ北海道はこれまでから3ポイントシュートを重視する傾向が強いクラブであり、富永のスタイルとの相性は非常に良いと考えられる。トランジションの早い展開やピック&ロール、ドライブ&キックからのキャッチ&シュートなど、彼の強みが出やすいシチュエーションをチームとしていかに用意できるかが鍵となる。
BリーグのコートはNBAやFIBAと同じ距離の3ポイントラインが採用されており、ネブラスカ大学やGリーグで培った「深いレンジ」もそのまま活きる。日本国内のリーグで、観客の目の前でディープスリーを連発する姿は、リーグ全体のエンターテインメント性の向上にもつながるだろう。
日本代表での活躍:ワールドカップとパリ五輪への貢献
富永の代表歴は、U16日本代表強化合宿への招集(2017年)から始まる。アンダーカテゴリー日本代表を率いたトーステン・ロイブルヘッドコーチは、彼のプレーを見て「ダイヤモンドを発見した」と評したとされ、早くからそのポテンシャルは高く評価されていた。
高校3年時にはU18アジア選手権の日本代表に選出され、アジアレベルの国際大会を経験。2022年7月にはトム・ホーバスヘッドコーチの下、ついにA代表に招集される。FIBAワールドカップ・アジア予選Window3のオーストラリア戦でA代表デビューを果たすと、いきなりチーム最多の18得点をマークし、国際舞台でも通用するシュート力を証明した。
同年のFIBAアジアカップでは、準々決勝のオーストラリア戦で両チーム最多の33得点を記録。ペリメーターからのシュートはもちろん、ドライブやフリースローも含め、得点源として日本代表のオフェンスを支えた。2023年のFIBAバスケットボール・ワールドカップ本戦にも選出され、特にカーボベルデ戦では3ポイント成功率75%という破壊力を発揮し、プレーヤー・オブ・ザ・ゲームにも選ばれている。
この大会で日本代表はパリオリンピック出場権を獲得したが、その過程において富永の3ポイントは、相手ディフェンスを広げ、ドライブやインサイドプレーの余白を生み出す重要な要素となった。単純な得点だけでなく、「スペーシング」という観点からも、日本代表にとって欠かせない存在となっている。
3×3日本代表としての顔:東京オリンピックとU23での経験
富永は5人制だけでなく、3人制バスケットボール・3×3でも日本代表としてプレーしている。2019年にはU23 3×3男子日本代表としてFIBA U23ネーションズリーグに出場し、世界各国の若手選手と対戦した。
2021年には3×3男子日本代表候補に選出され、最終的に東京オリンピックの3×3日本代表にも名を連ねる。3×3は12秒ショットクロックと21点先取というスピーディなルールで進行するため、即座にシュートを打てる選手、ディープレンジからでも決められる選手の価値が高い。富永の3ポイントは、3×3のテンポと相性が良く、ディフェンスのミスマッチや一瞬のスペースを逃さない能力でチームに貢献した。
東京オリンピック本戦では、ベルギーと中国に勝利して準々決勝に進出。結果としてメダルには届かなかったものの、3人制バスケットボールが世界の舞台で注目される中、日本代表の一員として新しいバスケットボールの形を示した。5人制と3人制の両方を経験していることは、スペーシングや判断スピードといった面で、富永のプレー全体に良い影響を与えていると考えられる。
プレースタイル分析:「和製ステフィン・カリー」と呼ばれる理由
富永啓生の最大の特徴は、圧倒的な3ポイントシュート能力である。3ポイントラインより大きく後ろの位置からでも、リズムよくシュートモーションに入ることができ、ディープスリーを高確率で沈める。そのレンジの広さが、ステフィン・カリーとの比較を生み、「和製ステフィン・カリー」という呼称につながっている。
単に距離が長いだけでなく、キャッチ&シュートの速さ、ステップバックやサイドステップからのリリース、スクリーンを使ったオフボールムーブなど、あらゆる状況からシュートを打つことができる点も特徴だ。ディフェンスは常に1〜2歩前に出ざるを得ず、その結果ドライブのレーンが空いたり、味方のカッティングが生きるなど、チーム全体のオフェンスにも好影響を与える。
コンボガードとしての器用さも見逃せない。ポイントガード的にボールを運びながら自らフィニッシュまで持ち込むだけでなく、シンプルなピック&ロールからのキックアウトやショートパスもこなす。純然たる司令塔ではないものの、「シュートを打てるハンドラー」として、現代バスケットボールで価値の高いタイプのガードだといえる。
3×3の経験で培われた「一瞬で打つ」「コンタクトを受けながらもバランスを崩さず打ち切る」感覚は、5人制の国際試合やBリーグでも重要な武器となる。ショットクロックが短い3×3の感覚を持ち込むことで、トランジションやセカンドチャンスでの早打ち3ポイントを躊躇なく選択できる点も、現代的なオフェンスのトレンドと合致している。
人物像とエピソード:ファンに愛される理由
富永啓生は、コート外でもそのキャラクターで注目を集めてきた。FIBAバスケットボール・ワールドカップ2023に出場した際には、お笑いコンビ・かまいたちの山内健司やピン芸人・やす子に似ているとSNS上で話題になり、「見た目とプレーのギャップ」も含めて、多くのファンから親しみを持って受け止められている。
大学や代表でのインタビューでは、常に謙虚でありながら、自身のシュート力に対する自信を感じさせるコメントが多い。3ポイントでチームを救うことを強く意識しており、ワールドカップでも「チームを3Pで助けると心に決めていた」と語っている。メンタル面での自己理解と役割認識がはっきりしている点は、シューターとして成功するための重要な要素だ。
また、ネブラスカ州から親善大使および「ネブラスカ提督」に任命されたことは、単なるスポーツ選手を超えた地域への貢献と愛され方を示している。地方都市の大学において、留学生である日本人選手がここまで象徴的な存在になるケースは多くはなく、それだけ富永が現地のファンやコミュニティにポジティブなインパクトを与えていたといえる。
富永啓生が日本バスケと3×3にもたらすインパクト
富永啓生の存在は、日本バスケットボールの「外側」のイメージを変える力を持っている。NCAAディビジョンIやNBAGリーグといった世界トップレベルの環境で、3ポイントを武器に結果を出してきたことは、日本人ガードの可能性を拡張する事例だ。また、3×3日本代表として東京オリンピックのコートにも立っており、5人制と3人制の両方で国際舞台を経験している点も極めてユニークである。
Bリーグ・レバンガ北海道でのプレーは、国内ファンがその成長の成果を直接見られる場になるだけでなく、3×3やストリートボール、次世代の3×3リーグに挑戦する若い選手たちに「シュート力で世界に近づける」という具体的なロールモデルを示すことにもつながるだろう。
今後、Bリーグでの活躍とともに、再びNBAGリーグやNBAへの挑戦があるのか、あるいは3×3の国際大会で再び日本代表としてプレーするのか。いずれの選択を取るにしても、「ディープレンジから試合を変えられるシューター」という価値は変わらない。日本バスケの歴史の中で、3ポイントの象徴的な存在として名を刻む可能性を持った選手である。
この記事をきっかけに、富永啓生のプレーやキャリアに興味を持った場合は、ぜひハイライト映像を共有したり、レバンガ北海道や日本代表、3×3日本代表としての彼を応援したり、将来性について周囲と議論してみてほしい。

