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富士通vsトヨタ自動車が“没収試合”へ。Wリーグ上位対決の消失が示す日本バスケのリスクと構造

上位決戦が一度も始まらず終わった夜

11月22日と23日、横浜武道館で予定されていた富士通レッドウェーブ対トヨタ自動車アンテロープスの2連戦は、試合開始前に「終わり」を迎えた。富士通チーム内でインフルエンザの蔓延が確認され、規定人数を満たせない見込みとなったことで、Wリーグは両試合を「没収試合(0−20)」として扱うと発表。再試合は行われず、スコアだけが公式記録に残る形となった。

第6週時点で、トヨタ自動車は9勝1敗でプレミア首位、富士通は7勝3敗で3位。優勝争いの行方を占うカードが、ゲームプランもローテーションも披露されないまま消えた。観客はもちろん、選手・スタッフ・リーグ関係者にとっても、これほど「何も始まらないまま重い結果だけが残る」週末はそう多くない。

今回の出来事は、単に不運な感染症クラスターというだけでなく、Wリーグというリーグ構造そのものの弱点を照らし出している。企業チーム中心の日本女子バスケが抱えるリスク、日程運営の硬直性、選手層の薄さ—それらが一気に表面化した事例だと言える。

企業チーム構造とロスターの脆さが引き起こした“ドミノ倒し”

Wリーグの多くのクラブは企業チームとして運営されており、選手は「社員兼プレーヤー」という立場で活動しているケースも少なくない。クラブ運営のスケールは企業の方針に左右され、登録人数やメディカル体制、帯同スタッフの厚みはBリーグほど豊富ではないチームも多い。

富士通のように、限られた人数で高いレベルの練習と試合を回しているクラブにとって、インフルエンザのような感染症は“一気に土台を崩しうる要因”になる。数名が同時に体調不良となれば、練習どころか試合の成立要件そのものを割り込んでしまう。今回まさにそれが起き、リーグ規約に基づき「没収」という最も重いカードが切られた。

逆にトヨタ自動車のように、選手層・スタッフ層ともに厚いクラブは、同じ外部ショックにも比較的耐えやすい。リーグ内での“体制差”が、感染症をきっかけに勝敗に直結する形で現れたのが今回の構図だと言える。

再試合という選択肢が事実上取りづらいWリーグの事情

「延期して別日にやればいいのでは?」という声も当然出てくる。しかし、Wリーグには再試合を簡単に設定できない現実的な事情がある。

会場となる横浜武道館は、各種スポーツ・イベントが詰まった人気アリーナであり、直前でキャンセルされた枠を改めて押さえ直すのは容易ではない。さらに企業チームは、選手の勤務・移動スケジュールも含めて年間計画が組まれているため、「平日に急遽代替試合を追加する」といった柔軟な運用が難しい。

Bリーグのように、クラブ主導でアリーナを確保し、ナイトゲームを組んでいくスタイルと比較すると、Wリーグは構造的に日程の再編成がしづらい。その結果、「日程・会場とも再調整が現実的でない→規定上は没収扱い」という流れになりやすく、今回のような極端な決着が生まれてしまう。

順位争いとチーム作りに残る“見えない損失”

没収試合の最も分かりやすい影響は、勝敗の数字だ。トヨタ自動車には2勝が加算され、富士通には2敗が付く。首位争いやプレーオフシードを考えれば、この2試合の結果はシーズン終盤で確実に効いてくる。

しかし、実は数字以上に大きいのが「経験値」の損失である。富士通は守備力を軸としたチームで、激しいボールプレッシャーとローテーションで相手のリズムを崩していくスタイル。一方トヨタ自動車は、大神HCのもとでハイテンポな攻守転換と3ポイントを強みにしたモダンなバスケットを展開している。

この“守備の富士通 vs テンポのトヨタ”という構図は、戦術的にもリーグの看板カードになる組み合わせだ。この2試合が消えたことは、両チームがシーズン中に自分たちのスタイルを検証・アップデートする観点でも、大きな痛手になっている。

守備側から見れば、「トランジションでどこまで走り勝てるか」「3Pラインの高さにどう対応するか」を測る機会が失われた。攻撃側から見れば、「ハーフコートでどこまで我慢強く崩せるか」「徹底されたヘルプに対してどのセットが有効か」を試す舞台を奪われたことになる。

他のプロスポーツでも繰り返されてきた“中止・没収”の判断

今回のケースは、決してWリーグだけの特殊事例ではない。新型コロナウイルスの感染拡大以降、日本のプロスポーツは何度も「試合をやるか、やめるか」「延期か、没収か」という判断を迫られてきた。

例えばバスケットボールでは、Bリーグが2019–20シーズンの途中でB1・B2の残り全試合とポストシーズンの中止を決断している。リーグとしては再開の可能性を探り続けたものの、選手・スタッフ・ファンの安全を優先し、「シーズン自体を止める」という最終判断に踏み切ったシーズンだった。

サッカーのJリーグは、リーグ戦を完走する方針を維持しながらも、「代替開催日を確保できない場合の取り扱い」というルールを細かく整備した。一方のクラブの責任で試合ができない場合は0−3で敗戦扱い、双方に責任がない場合は0−0扱いとするなど、没収・中止が順位にどう反映されるかを事前に規定した上でシーズンを走り切っている。

プロ野球(NPB)も、2020年はシーズン開幕を大幅に遅らせ、試合数を減らすことで対応した。シーズン中も多数の延期試合が発生したが、特例的なロースター拡大や代替指名選手制度を活用しつつ、最終的には全試合実施を目指す方向に舵を切った。リーグと専門家会議が継続的に連携し、「感染を完全にゼロにはできない」前提で、どう試合を成立させるかを探り続けた3年間だった。

こうした事例と比較すると、Wリーグの今回の判断は「人数・日程・会場・制度」の全てが最初からカツカツで、代替手段を取りづらい構造の中で起きたものだと分かる。言い換えれば、バスケやサッカー、野球がコロナ禍で積み上げてきた“危機対応のノウハウ”を、女子バスケにどう移植していくかが、これからの大きなテーマになる。

GL3x3や3×3チーム運営にとっての“他人事ではない”教訓

今回の一件は、3×3のチーム運営から見ても完全に他人事ではない。3×3は3人+交代1人の4人ロスターで戦う競技であり、1人欠けるだけでゲームプランが根本から変わる。フィジカルコンタクトが激しく、連戦形式で行われることも多いため、コンディション不良や怪我のリスクは5人制以上にダイレクトに勝敗へ響く。

GL3x3のようなエンタメ性と競技性を両立させるリーグを運営する視点で見ると、今回のWリーグの事例は次のような問いを突きつけてくる。

・ロスター4人だけでなく、“緊急登録枠”や“予備メンバー”をどこまで制度化するか
・感染症や怪我で突然出場不能が出たとき、どのタイミングまでなら差し替えを認めるか
・没収試合をどのような条件で適用し、順位や賞金にどう反映させるか
・配信や会場演出の観点から、「試合そのものがなくなる」リスクをどう分散させるか

3×3は「少人数・高密度」の競技であり、1人の欠場がリーグ全体の絵作りに大きく影響する。だからこそ、Wリーグが直面したような“ロスター崩壊からの没収”を、自分たちのリーグではどう防ぐか、あるいは発生したときにどう処理するかを、事前にルールとして描いておく必要がある。

女子バスケの未来を左右する“制度アップデート”の起点

今回の富士通vsトヨタ自動車の没収試合は、単に「もったいないカードが消えた」で済ませてはいけない出来事だ。これは、Wリーグがこれからどう成長していくのか、その方向性を問う事件でもある。

・登録人数やロスター構成をどう見直すのか
・緊急時の追加登録や若手選手のスポット起用をどこまで許容するのか
・再試合のための“予備日”や“柔軟な会場運用”をどこまで組み込めるのか
・興行と安全性、競技公平性のバランスをどう取るのか

Bリーグ、Jリーグ、NPBがここ数年で積み重ねてきた経験は、女子バスケにとっても大きなヒントになる。没収試合という最悪の形で露呈した課題を、「次に同じことが起きないための設計図」に変えられるかどうかが、Wリーグの価値をさらに押し上げるか、それとも足踏みするかの分岐点になる。

ファンとしてできるのは、この出来事を単なる不運として流さず、「なぜこうなったのか」「次はどう変わるべきか」を考え続けること。そして、いつか富士通とトヨタ自動車が万全のロスターで激突し、この2試合分の物語を取り返すような名勝負を見せてくれることを、しっかりと待ち続けることだろう。


【執筆】GL3x3編集部(バスケ専門ニュースチーム)
国内外のバスケニュースと3×3情報を中心に発信しています。

【Wリーグ/富士通レッドウェーブ】女子バスケWリーグでの進化の軌跡と未来展望|3度のリーグ優勝と地域密着の真実

富士通レッドウェーブとは|川崎を拠点とする女子バスケの名門クラブ


富士通レッドウェーブは、1985年に創部された富士通株式会社の女子バスケットボールチームであり、Wリーグ(バスケットボール女子日本リーグ)のプレミアディビジョンに所属しています。本拠地は神奈川県川崎市で、チーム名の「レッドウェーブ」は情熱(Red)と勢い(Wave)を象徴し、地域とともに成長することを理念としています。

拠点は川崎市中原区のとどろきアリーナ。練習場は富士通川崎工場に設けられており、地元のスポーツ振興やバスケクリニック、トークショーなどの地域貢献活動にも力を入れています。

激動の昇降格を経て、Wリーグの主役へ

創部当初は関東実業団4部からのスタートでしたが、1989年に日本リーグ2部へ昇格。1995年には1部へと駆け上がるも、その後数年間は昇格と降格を繰り返す苦しい時期が続きました。

ターニングポイントは2001年。元韓国代表でシャンソン化粧品でも名を馳せた李玉慈(イ・オクチャ)をヘッドコーチに迎えると、W1リーグで優勝を果たし、2002年からWリーグに本格参戦。以降は安定した戦力と育成体制を背景に、リーグの中心的存在へと成長していきました。

黄金期の到来とタイトル獲得の歴史

レッドウェーブが本格的に日本女子バスケ界の頂点に立ったのは2006年。中川文一ヘッドコーチのもと、皇后杯(全日本総合バスケットボール選手権)で初優勝。その後2007年・2008年と3連覇を成し遂げ、「シャンソン」「JOMO」という2強時代に風穴を開けました。

さらに2008年にはWリーグでも初優勝を達成。皇后杯との二冠を達成したことは、チームの実力が真にリーグトップクラスであることを証明しました。

2023-24、2024-25シーズンには再びリーグを制覇し、Wリーグ優勝は通算3回。皇后杯も2024年の4度目の戴冠で、タイトル総数は計7冠に達しています。

指導陣と育成体制|BT・テーブス体制の安定感

現在チームを率いるのはBT・テーブス(Bryan Teves)ヘッドコーチ。2014年よりアソシエイトコーチとしてチームに参加し、その後ヘッドコーチに昇格。的確な戦術眼と、選手個々のポテンシャルを引き出すマネジメントが高く評価されています。

また、アシスタントコーチには日下光、後藤祥太が就任しており、細かな戦術対応からフィジカル指導まで、多角的な支援体制を整えています。

代表経験者も多数|町田瑠唯をはじめとしたスター選手たち

富士通レッドウェーブの強さの秘密のひとつは、日本代表レベルのタレントを複数擁している点にあります。特に注目されるのは、ポイントガードの町田瑠唯。抜群のゲームメイク力とアシスト能力で、日本代表やWNBAワシントン・ミスティックスでの活躍歴もある名プレーヤーです。

キャプテンを務める宮澤夕貴も、日本代表で長年活躍するフォワード。身長183cmのサイズを活かしたインサイドとアウトサイドの両面でのプレーに定評があります。その他、林咲希、赤木里帆、藤本愛妃らが主力としてチームを支えています。

2024-25シーズン総括|圧巻の強さで王者奪還


2024-25シーズン、富士通レッドウェーブは23勝5敗という圧倒的な成績でレギュラーシーズン1位を獲得。プレーオフでも激戦の末にファイナルで3勝2敗と勝ち切り、2年連続でWリーグ制覇。さらに皇后杯でも頂点に立ち、2007年以来の2冠達成を果たしました。

このシーズンの成功は、チーム戦術の深化とベテラン・若手の融合、そして安定した指導体制によるものと評価されています。

GL3x3視点での注目ポイント|3×3バスケとの親和性

GL3x3として注目すべき点は、富士通レッドウェーブの選手たちが3×3バスケにも適応可能なスキルセットを持っていることです。例えば町田瑠唯のピック&ロール処理、林咲希の外角シュート、宮澤夕貴のフィジカルな1on1など、すべてが3×3の戦術的トレンドにマッチしています。

今後、GL3x3とのコラボや代表候補としての選出も視野に入れられる選手層の厚さは、女子3×3バスケの未来を担う存在と言えるでしょう。

地域貢献とマスコット文化|「レッディ」とともに歩む未来


富士通レッドウェーブは、2004年より川崎市の「ホームタウンスポーツ推進パートナー」に認定され、地域密着型のクラブ活動を積極的に展開。ホームゲームへの市民招待やバスケットボールクリニックの開催など、スポーツによるまちづくりを実践しています。

また、マスコットキャラクター「レッディ」は海鷲をモチーフにしたチームの象徴で、「Red」と「Ready To Go」の2つの意味を兼ねています。地域との一体感を強調するこのスタイルは、他のクラブのロールモデルともなっています。

今後の展望|日本女子バスケの未来を担う存在へ

3×3が五輪正式種目となり、国内リーグや育成年代の動きも活発化する中、富士通レッドウェーブが果たす役割はさらに大きくなっていくと見られます。

選手層の厚さ、指導体制の安定、地域とのつながり──この3要素を軸に、Wリーグだけでなく、3×3や国際舞台でも注目される存在であり続けることは間違いありません。

今後もその動向から目が離せません。