父の伝説を継ぐ息子――アンソニー家の“もう一度シラキュースへ”
NBAを代表するスコアラー、カーメロ・アンソニーの息子であるキヤン・アンソニー(Kiyan Anthony)が、父の母校・シラキュース大学への進学を正式に表明した。
身長196cmのシューティングガード。高校生ながらすでに全米で注目される存在で、『247 SPORTS』では2025年入学組の全体34位、ポジション別6位。『ESPN』でも全体36位、シューティングガード9位と評価されている。
このニュースはアメリカのバスケットボール界で大きな話題を呼んでいる。なぜなら、父カーメロがシラキュースを全米王者に導いたのは、今なお同校史上唯一の優勝(2003年)だからだ。
つまり、息子キヤンの入学は単なる「有望選手の加入」ではなく――伝説の物語が“再起動”する瞬間でもある。
父を知る重圧:「中学、高1のころは本当に苦しかった」
キヤンは取材で、父と常に比較されてきた過去を率直に語っている。
「特に中学、高校1年生の時の葛藤はすごかった。父と同じコートに立つたびに、“違う自分”を探さなきゃいけない気がしていた」
しかし、その苦悩の時間を経て彼は父の助言を受け入れるようになった。
> 「何をすればいいか分からない時期があったけど、父の言葉を信じてルーティーンを作るようになった。そこから、自分のプレースタイルを確立できた。」
この“ルーティーン”という言葉に、父から息子へのバトンが見える。
努力を習慣に変え、自己確立の道を歩み始めたキヤン。SNSのハイライトやキャンプ映像からも、以前の“型にハマったスコアラー”ではなく、プレーメイクとオフボール判断に長けたコンボガードとして進化を遂げているのが分かる。
スタイルの違い:父=支配者、息子=創造者
キヤンは父との決定的な違いを、こう語る。
「父は真っ向勝負で相手を打ち負かすタイプ。どんな状況でも得点できる。でも自分は、味方のチャンスを作ることに喜びを感じるタイプなんだ。」
つまり、カーメロが“個の力”で勝負を支配したのに対し、キヤンは“流れを読む”プレーメイカー型。
3×3的に言えば、父が「アイソレーション・キング」なら、息子は「クリエイティブ・リンクマン」。
彼のプレーは、1on1だけでなく、味方のスクリーンを活かしながらズレを作ることに長けており、ピック&ロールの読みやキックアウト精度も高校生離れしている。
また、「ドリブルをしすぎず、ディフェンス効率を高めたい」と語る姿勢も印象的だ。
この発言は、父世代の“得点第一主義”から、現代の効率・連動・判断を重視するバスケへの進化を象徴している。
父・カーメロの“影響”と“距離感”
カーメロ・アンソニーは2002–03シーズン、シラキュース大でわずか1年プレーしながらも平均22.2得点・10.0リバウンドのダブルダブルを記録。NCAAトーナメントでは圧倒的なスコアリングでチームを全米制覇へと導いた。
この「一年伝説」は今なお大学の金字塔であり、オレンジ色のユニフォームに「15番=メロ」のイメージを刻みつけた。
そんな父の母校をあえて選んだ息子にとって、そこは“安易な道”ではない。
なぜなら、父の影が一番濃い場所だからだ。
それでもキヤンはその重圧を正面から受け止める決断をした。
「父の足跡をなぞるんじゃなく、同じ場所で“自分の色”を塗り替える」と語る彼の表情は、もはや“二世”ではなく、一人の挑戦者のものだった。
シラキュース再興への鍵:父子の共鳴が“停滞の打破”になるか
シラキュース大学は過去3シーズン連続でNCAAトーナメント出場を逃している。
往年のゾーンディフェンスが象徴だった名門も、近年はオフェンス効率とリクルート競争で後れを取っていた。
そんな中でのキヤン加入は、単なる“話題性”にとどまらない。
・スター不在のチームに「象徴」をもたらす
・ACCカンファレンス内のリクルート戦略で優位に立てる
・父カーメロがもたらした“オレンジ・ブランド”の再活性化
この3点を兼ね備えたリクルートであり、まさに「一人で三つの価値を持つ」加入だ。
次世代スターの潮流:ブーザー兄弟との宿命の対決へ
同じ2025年入学組では、元NBAスターカルロス・ブーザーの双子の息子、キャメロン&ジェイデンがデューク大に進学予定。
シラキュースとデュークは同じACCカンファレンスに属するため、
「メロJr. vs ブーザーJr.」という“二世頂上対決”が実現することになる。
この構図はまるで“新世代のNBA前哨戦”。
父たちが2000年代のNBAを彩ったように、息子たちは2020年代後半のNCAAを熱くする存在になるだろう。
GL3x3的考察:キヤンに見る“次世代バスケの文法”
キヤン・アンソニーのプレースタイルは、3×3バスケにも通じる現代的な感性を持っている。
・過剰なドリブルを避け、テンポとリズムを重視
・オフボールでのカッティング意識が高い
・判断スピードが速く、仲間を活かす
・スペーシングと効率の最適解を探る
これらは3×3が追求してきた“共有・即興・効率”の美学と重なる。
もし将来、キヤンが3×3の舞台に立つことがあれば、そのスタイルは間違いなくフィットするだろう。
結びに――「親の名を超える」ではなく「自分の道を描く」
父の伝説を継ぐというより、同じ地で“自分の物語”を描くために戻る。
カーメロが築いた頂点の軌跡を、キヤンは真っ直ぐに追いかけない。
むしろ、父が残した“影”に光を当て直すように、別の角度からシラキュースの物語を再構成していく。
これが、“二世”ではなく“一人のプレイヤー”としてのキヤン・アンソニーの始まりだ。
オレンジのユニフォームが再び輝きを取り戻すとき、そこには父の名ではなく、
キヤンという新しいシラキュースの象徴が立っているだろう。

