千葉ジェッツが「売上高51億円」突破、Bリーグ初の大台へ
バスケットボールBリーグにおいて、2024–25シーズンはひとつの歴史的節目となった。B1の千葉ジェッツが、ついに**売上高51億7千万円**を記録。Bリーグクラブとして初めて「50億円の壁」を突破した。
これはサッカーJ1クラブの平均売上高(約58億円)に迫る規模であり、バスケットボールという競技の国内経済的地位が大きく変わりつつあることを示している。
この飛躍の背景には、2024年に開業した**新本拠地「ららアリーナ東京ベイ」(千葉県船橋市)**の存在がある。収容人数約1万1千人を誇るこの最新アリーナは、Bリーグにおける アリーナエコノミー の象徴的成功事例として注目されている。
アリーナが変えた「スポーツの体験価値」――観戦から滞在へ
ららアリーナ東京ベイの特徴は、単なる試合会場ではなく**「体験型エンターテインメント空間」**として設計されている点だ。
ショッピングモール「ららぽーとTOKYO-BAY」との複合立地により、観戦前後の時間を含めた滞在型消費を生み出す構造が整っている。
飲食、グッズ、イベントなど、チーム運営収益の多角化が進み、アリーナ来場者数の増加とともに**入場料収入は前年比34.7%増**を記録。千葉J単体では約15億6千万円のチケット売上を達成し、琉球ゴールデンキングス、宇都宮ブレックスも10億円を超えるなど、B1上位クラブの経済圏は拡大を続けている。
この動きは、アメリカNBAで進む スポーツ×都市開発 の流れを日本流にローカライズしたものと言える。アリーナを地域の商業・文化・教育のハブにする発想が、Bリーグを「地域共創型スポーツ産業」へと進化させている。
リーグ全体で約651億円に到達、3部含め810億円市場へ
Bリーグ(B1・B2)の全クラブ売上高合計は**約651億円**に達し、前年から約99億円増。さらにB3を含めると、クラブとリーグの事業規模の合計は**約810億円**に到達した。
これはリーグが掲げていた**中期経営計画「2028–29年までに800億円」**という目標を、4年前倒しで実現したことを意味する。
島田慎二チェアマンは会見で「この勢いを維持し、2028年度には1,000億円規模に到達したい」と語り、国内スポーツ市場でのプレゼンス拡大を明確に打ち出した。
数字の上でも、Bリーグはもはや 挑戦者 ではなく 競合勢力 としてJリーグに肩を並べつつある。平均入場者数や観戦満足度でも向上が続いており、バスケットボールが「日常的に観戦されるスポーツ」へと変わりつつある。
一方で赤字クラブは増加、投資フェーズの課題も顕在化
成長の陰で見逃せないのが、**赤字クラブの増加**だ。2023–24シーズンの5クラブから、2024–25シーズンには15クラブに拡大。B1で8、B2で7という構成になっている。
島田チェアマンは「アリーナ建設や選手補強など 攻めの投資 による支出増が主因」と説明しており、短期的な収益よりも中長期的なブランド価値向上を優先する姿勢を見せた。
とはいえ、**債務超過クラブはゼロ**。つまり、各クラブは一定の経営健全性を保ちながらも、積極的な成長投資を行っている。
プロスポーツビジネスでは「赤字=悪」ではなく、未来への布石と捉える文脈が主流である。NBAや欧州サッカーでも、スタジアム建設期には一時的な赤字が発生するのが常だ。Bリーグもいま、まさにその段階にある。
次世代の鍵「Bリーグ・ワン(Bワン)」とは?
2026年にスタートする新2部リーグ「Bリーグ・ワン(Bワン)」は、Bリーグの成長戦略を象徴するプロジェクトだ。
初年度の参入基準となる売上高を満たしたのは**25クラブ**。10月21日に正式発表予定で、次の昇格・降格制度を見据えた 新しいピラミッド構造 が形作られようとしている。
Bワンの導入により、B2クラブも経営拡大へのインセンティブが高まり、地域密着型の経営モデルが一層進化する見通しだ。
特に3×3やアカデミー、女子クラブとの連携を進めるチームも多く、**「総合型クラブ経営」へのシフト**が加速している。
Jリーグとの比較から見える「競技価値の拡張」
現在、J1クラブの平均売上高は約58億円。トップクラブである浦和レッズや川崎フロンターレなどは80億円台に達するが、Bリーグ勢も着実にこのレンジへと近づいている。
Bリーグ発足からまだ9年という短期間でこの水準に達したことは、国内スポーツ産業の構造変化を象徴している。
特にバスケットボールは、**試合回数の多さ(年間60試合超)と屋内開催による安定収益性**を強みとしており、スポンサー価値やファンマーケティングの精度では他競技を凌駕する部分もある。
SNSフォロワー数や動画再生数でも成長著しく、若年層へのリーチはサッカーを上回るクラブも現れている。
「観客動員から顧客育成へ」――Bリーグの次なる課題
今後の焦点は、単なる動員数拡大ではなく**「ファンLTV(生涯価値)」の向上**にある。
チケットやグッズだけでなく、サブスクリプション型のファンクラブ、NFT・デジタル会員証、地域企業との共創プロジェクトなど、顧客接点の多層化がカギとなる。
千葉ジェッツはその先駆けとして、**公式アプリ連動のデータドリブンマーケティング**を展開しており、ファンの購買履歴や行動データを活用して新たな価値提案を行っている。
このような デジタル×アリーナ のシナジーが、Bリーグ全体の収益モデルを進化させていくだろう。
3×3・女子・地域との連携が次のフロンティア
リーグ全体の成長に伴い、3×3バスケットボールや女子リーグとの連携も無視できない。
特に3×3.EXE PREMIERやGL3x3のような都市型リーグは、Bリーグの新たなファン層獲得や地域露出に直結しており、クラブによっては3×3部門を設立する動きも加速している。
スポーツが「競技」から「文化」に進化するためには、地域社会・教育機関・民間企業を巻き込んだ総合的な仕組みが必要だ。千葉ジェッツの成功は、そのモデルケースとして今後の日本バスケットボール全体に影響を与えるだろう。
まとめ:Bリーグは 挑戦者 から 牽引者 へ
千葉ジェッツの売上高51億7千万円突破は、単なる数字の話ではない。
それは、日本バスケットボールが**「マイナースポーツ」から「メジャー産業」へ進化した証拠**である。
Bリーグ全体がこの波に乗り、アリーナ改革・デジタル戦略・地域共創の三位一体で進化すれば、「スポーツで街を変える」未来は現実になる。
今後は、Bワンの始動やクラブの収益構造改革が焦点となる。
そして、千葉Jのように地域とともに歩むクラブ経営が、リーグ全体の成長エンジンになるだろう。
Bリーグは今、次の10年に向けて 第二の創成期 を迎えている。
その主役は、千葉ジェッツを筆頭に、挑戦を続けるすべてのクラブだ。